常念山脈前衛 馬羅尾山(1852.3m)、唐沢山(1575m)、雨引山(1371.0m) 2016年11月3日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 6:36 車止め−−6:54 林道終点(渡渉)−−7:10 渡渉(標高1090m)−−7:25 渡渉(標高1150m)−−7:33 渡渉(標高1190m)−−7:50 渡渉(標高1280m)−−8:04 斜面に取り付く−−10:15 標高1840mでトラバース−−10:38 馬羅尾山(休憩) 11:26−−12:08 1610m鞍部−−12:52 1711m峰−−13:24 1530m鞍部−−14:00 唐沢山(休憩) 14:23−−14:55 送電鉄塔−−14:57 1240m鞍部(廃林道)−−15:23 雨引山−−15:38 1240m鞍部−−16:09 ゲート−−16:10 車止め

場所長野県大町市/北安曇郡松川村
年月日2016年11月3日 日帰り
天候晴後雪後晴
山行種類籔山
交通手段マイカー
駐車場有明山松川ルート車止め付近に駐車余地あり
登山道の有無芦間川沿いと廃林道〜雨引山〜有明山登山口間は登山道あり。廃林道〜唐沢山間は断続的に踏跡あり。他は道無し
籔の有無笹と石楠花。特に馬羅尾山〜唐沢山間は延々と続く石楠花が酷い。残雪期でも石楠花から逃げるのは不可能だろう
危険個所の有無あちこちに岩場あり。岩の直登は不要だが自力で安全な迂回路を見つける必要あり
山頂の展望馬羅尾山:僅かに東が開ける  唐沢山:巨岩の上なら展望良  雨引山:北東側が開ける
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コメント今シーズン初めて雪に降られながら有明山松川コース登山口から時計回りに周回し、おまけに雨引山を往復。想像以上の藪の酷さで笹はまだマシだが(でも顔と首は傷だらけ)延々と続く石楠花が体力と時間を消耗させる。特に馬羅尾山〜唐沢山間が酷い。馬羅尾山は唐沢山とは切り離して単独で登った方がいいだろう


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有明山松川ルート登山口 橋の先で車止めあり
川沿い以外の道は生きていた 十字路の標識。ここは右折
昔の有明山登山口付近の駐車場 林道を進む
最初の渡渉個所の案内看板 最初の渡渉個所の案内看板。今は丸木橋は無い
最初の渡渉個所。場所を選ばないと飛び石で渡れない 渡った先の案内。有志が登山道整備を継続してるとのこと
左岸側の道 大水で道が削られている
ここで沢沿いから高巻道へ 再び左岸に下り渡渉。最初の渡渉点より容易
右岸側に移る。岸から離れた個所は道明瞭 でも川原の中はこんな状況
また渡渉で左岸へ。もう簡単に渡れる水量 河原を進む
また渡渉で右岸へ 右岸の高巻道
右岸の川べりに下りるとルート不明に。目印が頼り 川原に目印が続いている
奥の斜面は降雪。馬羅尾山はどうかなぁ 斜面取付点から馬羅尾山までの直線距離
斜面取付点付近は急斜面なので下流へと向かう ここで斜面に取り付いた。一面の笹
笹が無い涸れ谷を登る この滝で左岸急斜面に迂回
かなりの急斜面を笹に掴まり登る 標高1380mで尾根に出る
標高1390mで石楠花が現れる 標高1450m。写真では分からないがかなりの急斜面
標高1460mの小鞍部 標高1490m
標高1500m。岩の左を巻く 標高1530m。今度は岩の右を巻く
岩の右巻き中 尾根に復帰するにも急斜面が待っている
標高1560mの小鞍部。これより上部は石楠花激籔 標高1570m
標高1580mの岩 標高1600mの小鞍部
標高1630mから見た有明山の尾根 標高1690m。笹藪は石楠花よりマシだ
標高1750m 標高1800m。僅かに雪が乗った石楠花の森
標高1820m。やっと石楠花から解放 標高1830mで右にトラバース
馬羅尾山に続く尾根に乗る 標高1820m峰。石楠花籔
安曇野平野は晴れているが山は雪が舞っている 1820m峰を越えると藪が消失、歩きやすい
1800m鞍部付近。天国だ! 馬羅尾山の登りも低い藪で快適
馬羅尾山山頂。三角点は発見できなかった 三角点北側の最高点
樹林の隙間から見た安曇野平野 唐沢山向けて出発
標高1830m 北側は雪雲の中で見えない
標高1780m。石楠花籔に突入 標高1720m。下りは藪と急斜面でルート把握が困難
標高1680m。尾根を外し戻るにもこの状況 標高1660m。1710m峰が見えた
標高1640m。鞍部付近までは笹がメインでマシな状況 1610m鞍部で初めての目印を発見
1610m鞍部の標柱 標高1620m。鞍部を過ぎるとまた石楠花
標高1660m。石楠花が薄まると獣道も見られる 標高1700m
1710m峰直下 1710m峰
1710m峰の大岩。巻くことが可能 1710m峰で見た切り口。人の手が入ったことがあるようだ
まだ1710m峰の真ん中付近 1710m峰東側ピーク
1711m峰への登り 1711m峰。てっぺんは藪は無いが下りから再び石楠花
標高1650m付近。石楠花の海を進行中 隙間から唐沢山が見えた
標高1610m付近。明瞭な獣道あり 標高1600mの岩
標高1600mの岩 標高1560mの岩
標高1570m 餓鬼岳はちょっと白いだけ
標高1500m峰 唐沢山への登り
唐沢山山頂直下の巨岩を南から巻いた 唐沢山山頂の巨岩の石門
唐沢山山頂は巨岩の上 巨岩の上から見た雨乞山
巨岩の上から見た北側 巨岩の上から見た西側
巨岩上にテープを残す 南東尾根を下り始める。最初だけ急で石楠花あり
尾根がはっきりすると歩きやすくなる 安曇野はよく晴れている
標高1490m 唐沢山以降はテープ類が多い
標高1500m肩 標高1500m肩で左に曲がる
標高1500m肩で直進方向にも目印あり 刈り払った跡あり
標高1410mの岩。巻く 標高1390m
標高1320mの岩。これも巻く 標高1260m。送電鉄塔手前
1240m鞍部。廃林道終点 廃林道の北側は人間が歩くための道
雨乞山へ向かう。最初は道無し 1240m鞍部から見た鍬ノ峰
雨乞山登山道に合流 登ってきた道を指して「下山道」となっている
尾根上の気持ちいい道 山頂のお社
雨乞山山頂の鳥居 雨乞山から見た安曇野
雨乞山から見た餓鬼岳 雨乞山付近から見た唐沢山
廃林道に出た。鞍部よりちょっとだけ南側 登山道の表記ではなく神社参道
廃林道ではなく「下山道」を下ってみる 送電線巡視路と兼用
地形図に無い廃林道に出るとちょっと道が怪しくなる 細い道を辿る
別の地形図に無い廃林道に出る 再び細い道へ
これが1240m鞍部へとつながる廃林道 廃林道から「下山道」への分岐点
舗装道路に藪が進出している 林道が沢に変わっている
倒木もあり ゲート到着
ゲート横の祠 林道入口の案内標識
出発地に到着。今日は疲れた!


 東沢岳から東に伸びる尾根上にあるのが西から順に東餓鬼岳、清水岳、馬羅尾山、唐沢山、雨乞山、大洞山、城山だが、東餓鬼岳、清水岳は既に登っており、今回は馬羅尾山、唐沢山、雨乞山を目指すことにした。以前から気になっていた山だが登山道は無く標高は2000m以下なので暑い時期が終わるのを待っていた。そうしているうちに雪が降るシーズン直前になってしまったが、藪は落葉して見通しは良くなったであろう。

 ここは例の如くDJF氏が登っている。ネット検索では他にも記事を発見したが、どちらも残雪期の記録だ。ただし、この界隈はそもそも積雪量は少なく、記録を読んだ限りでは雪が残っているために藪漕ぎがお得になった感触は感じられなかった。逆に岩場の通過を考えると無雪期の方がいいように思えた。

 ルートであるが、アプローチの問題を考えると南側の有明山登山道を利用できる芦間川側からが有利。DJF氏は馬羅尾山と唐沢山の中間にある1710m峰に達する尾根から登っているが、効率よく周回するなら僅かに傾斜が緩いこともあって馬羅尾山のすぐ西側の1900m峰(肩)に上がる尾根を使った方がいいと判断した。ただし、この尾根を素直に登ると1900m峰に達して余計な登りをすることになるので、傾斜が緩む1810mくらいから右にトラバースして尾根に乗るのがお得だろう。ただしトラバースが可能な植生だったらの話であるが。

 カーナビを頼りに松川へと向かう。すずむし荘を過ぎて西へと入っていくが舗装道路が続く。やがて道路右側に傾いて立入禁止のテープに囲まれた小屋が登場し、橋の向こう側に車止めのチェーンが登場する。以前はもっと奥まで車では入れたらしいが今はここまで。駐車余地が何箇所かあるので適当に止められる。酒を飲んで仮眠。上空には星が見えていた。天気予報では明日は冬型が強まって日本海側や県境は雨の予報だったが、安曇野まで南下すれば大丈夫との判断だった。ただし低気圧が抜けて明日はもっと冬型が強まるとのことで、どこまで雪雲が南下するかちょっと心配でもあった。

 翌朝、上空は雲は多いものの青空も見えており、この付近がちょうど雲の境界らしい。おそらく白馬村は雪雲の下だろう。冷え込んではいるが車の窓ガラスの水滴が凍るほどではなく外気温は0℃前後だった。ここからでは稜線の状態は不明なので念のため軽アイゼンをザックに突っ込み、防寒着は多目にしておく。さて、藪が濡れていないことを祈ろう。

 車止めには有明山のルートは荒廃との案内が。でも完全に道が無くなったわけでもなかろう。最初は林道歩きで有明山の案内に従うが基本的に地形図の通りだ。十字路で案内看板があり右が有明山方面。地形図の林道終点手前で左側に登山者用駐車場が登場、以前はここまで車で入れたようだ。次に登山道の案内標識が出てきたが、これは古いものらしく支障があるようなことは書かれていなかった。

 その先で林道は川岸に達するがプッツリと切れて無くなっていた。手前の標識では丸木橋があると書かれていたがこれも古い表記らしく、今は橋はないので飛び石で適当に対岸へと渡る。この時期でも場所を選ばないと靴を履いたままでは渡れないので、雨が降った後は厳しいだろう。対岸にも標識があり、それによると平成26年以降は行政による登山道整備はされていないとこと(ただし有志による整備はされている)。川に達して分かったが、この原因は大増水で川が荒れて橋も流されたためだろう。河原は明らかに大幅な増水(土石流)があった形跡があり、両岸は削られた場所もあった。

 左岸側へ道が移ると明瞭な道が残っていた。ようは増水によって河原の中にあった道だけが消されてしまったようだ。再び登山道が右岸へ移る場所には河原、対岸に目印があり分かりやすい。ここも橋は無く飛び石で渡る。こんなことを5回ほど行ったが、河原が荒れて以前の道が河原の中にあった区間はほとんど痕跡は残っていなかった。今は目印を頼りに歩くか、川原の中の歩きやすい部分を適当に歩くしかないだろう。

 目的の尾根は不明瞭な地形で取付点が分かりにくく、川の曲がり具合で判断した方が分かりやすいが、カーブの曲率が大きいので簡単には分からないかもしれない。それゆえに今回はそれらしき地点でGPSの出番。取付点の緯度経度を入れておいたのだが、ピタリその場所であった。斜面はどこも笹に覆われて樹林は深く上の様子は見えない。ただし登りはどこを通っても最終的には1900m肩に収束するので、細かなことは考えなくていい。

 芦間川上流方向に見えている斜面には雪が載っており、もしかしたら馬羅尾山も雪が積もっているかもしれない。藪の上に半端な積雪は最悪パターンで、この時点では山頂までたどり着けるか自信が無かった。どうせなら西上州との境界とか、この時期なら絶対に雪がないエリアにすれば良かったと後悔したが、ここまで来たら行けるところまで行くしかない。

 目の前の斜面は急過ぎて登るのが厄介なので、少し下流側に移動して緩い斜面から取り付いた。右手には笹のない涸れた谷があったので、行けるところまでこれを伝って藪漕ぎを回避することに。登ると水が現れて岩場が滑りやすくなり、足がかりがある場所を選んで慎重に登っていく。

 やがて高さ10m程度の岩壁(滝)が登場、これを登るのは無理なので右側から巻くことにする。対岸よりマシだがかなりの急斜面で笹を掴んで強引に登るしかない。笹は中央アルプスで見られるような茎が細く手で容易に掻き分けられるタイプであり、背丈は腰くらいだが急傾斜の登りでは頭上を覆うので見通しは無く、ひたすら高いところを目指す。

 やっと尾根に乗るが登ってきた谷への斜面はどこも急で、再び沢登りをするわけにもいかずこのまま笹の尾根を登ることにする。笹藪は北信の根曲竹と比較すればどうということはないが、無毛地帯と比較すれば鬱陶しいのは事実だ。両手で掻き分けつつ登っていく。

 デフォルトで傾斜が急な尾根だが、標高1400mを越えるといっそう急な部分が登場、見上げると岩と石楠花の登場だ。DJF氏が登った尾根も岩があったと書かれているが、この付近の地質はそうなりやすいのかもしれない。幸い、岩を攀じ登らなくても巻くことが可能であったが、再び尾根に復帰するのに急斜面を登る羽目になった。この後も岩が度々登場するがどれも左右どちらかに巻くことができたが、岩の前後は傾斜が急で北ア硫黄岳を思い起こすほど。おまけに下から見上げても石楠花藪や岩陰で上部や左右の様子が見えず、突入時に最後まで巻くことができるのか確信が持てない個所もあった。正直言ってここは登るのもいやだが下りはもっとイヤだろう。あの傾斜では真の尾根直上がどこなのか把握するのはまず不可能だと思う。おそらく何度も針路変更を余儀なくされるだろう。

 尾根が痩せて岩が登場すると、それまでの笹の植生から石楠花へと変わり、これが標高1820m付近で傾斜が緩むまでほぼ続く。笹と違って石楠花の突破は労力がかかる。場所によっては足が地面に届かないことも。標高が低いので基本的に幹は立っているのだが、この尾根の石楠花は癖が悪いことに地面付近から枝を横に伸ばしている。奥秩父の石楠花藪と同等だが、これが長距離で続くのだからうんざりする。

 残念ながら本日の天候は不安定で、朝は晴れていたがその後曇りとなり細雪が舞い始めた。気温は0℃前後で体を動かしている分には寒くはないが、グローブは冬用でないと冷え性の私では指先の感覚が無くなるほど。今シーズン初めて冬用の登場で、中には使い捨てカイロを仕込んで正解だった。降る雪の量は僅かなので標高が低い個所は雨具は不要だが、標高が上がると前夜に降ったと思われる雪が笹や石楠花の上に薄っすらと積もっていて衣服を濡らすようになり、上下ともゴアを着用した。手袋も湿ってしまったが予備を持ってきたので問題無し。雪が舞ったと思ったら日が差したりと短時間でコロコロ変わる。でも大きな崩れは無さそうで、この調子なら馬羅尾山まで行けそうだ。というよりもこの尾根を下るのは真っ平ごめんなので、何が何でも馬羅尾山に達して唐沢山経由で下るつもりだ。

 標高が1800mを越えてそろそろ右にトラバースしたい場面だが、まだこの高さでは尾根は急峻でトラバースは不可能で、石楠花尾根を登り続けるしかなかった。標高1820m位から傾斜が緩み始めて尾根幅も徐々に広がり、植生は笹へと変わり格段に歩きやすくなった。しかしここの笹は肩くらいまである高さで密度も濃く、簡単にトラバースできる状況ではなかった。もう少し傾斜が緩くなる1840mまで上がってから右へ横移動、短時間で馬羅尾山の尾根に乗ることができた。

 主尾根の尾根幅は広く石楠花は皆無で笹の海で下りということもあって歩きやすい。ただしだだっ広いので尾根を外さないように周囲の地形を確認しながら進む。鞍部から緩やかな登りにかかると笹の高さが高くなって身を没しながら登る。1820m峰のてっぺん付近は濃い笹+石楠花も登場して通過に苦労した。もしかしたら西側を巻いた方が楽だったかもしれない。

 1820m峰を越えると植生がガラっと変わり、背の高いシラビソ樹林に地面付近は笹も石楠花も無くフカフカした地面で天国のような歩きやすさだった。主稜線はこの状態が続くなら唐沢山まで楽勝だろうとこの時は思えた。後から分かったことだが、この天国は1820m峰から馬羅尾山の間だけだった。

 最後の登りでピークに到着。人工物は見当たらないがここが馬羅尾山山頂に違いない。GPSで確認すると間違いなく山頂だった。テープ類も皆無の山頂は久しぶりだと思う。発達したシラビソ樹林に覆われてほとんど展望は無いが、僅かに東側が見える隙間があった。雪はほんの僅かにある程度で、笹もさほど濃くないレベルでちょっとだけしかなかった。三角点があるはずなので、笹を分けてかなりしつこく探したが発見できなかった。山頂部は南北に細長いが地形図の表記ではその南の肩付近にあるはずで、そこを中心に探したがダメ。おそらく設置当時から三角点の頭の高さが地面と同じ程度しかなく、落ち葉に隠されてしまったのだと思う。非常に残念だった。

 防寒着を着込んでしばし休憩。笹がない場所があるので休むにはちょうどいい。出発前にテープを残したが、次にここを訪れる登山者が登場するのはいつのことだろうか。

 さあ、次は唐沢山だ。GPSを見ると唐沢までの直線距離は約2.1kmであった。この距離なら途中のアップダウンを考慮しても登山道がある山や馬羅尾山手前の藪無し快適植生ならなら1時間程度、多少の藪を考慮しても2時間はかからないとこの時は考えていた。途中に1710m峰と1711m峰があるが、基本的には下りになることも有利な点だ。

 しかし下り始めから急な下りが連続し、尾根がはっきりしないので地形を読むのにかなりの時間を要した。樹林で尾根の先が見通せないこともあってルートファインディングが非常に難しかった。この点は北ア硫黄岳や遠山郷の布岩山東尾根と似た状況だった。おまけに再び悪夢の石楠花藪の登場だ。尾根を外して軌道修正でトバースしようにも、石楠花藪を横に突っ切るのはほぼ不可能な状況で、薄いところまで上によじ登ってから横移動だ。下りなので藪漕ぎは楽だと思ったが、登りよりはマシだが石楠花相手では下りでもスピードは出ない。

 地形図に表記がある標高1740m付近で南に分岐する尾根は引き込まれやすいが、地形図で読める分だけ分かりやすい方で、その他の地図で表現しきれない微小尾根っぽい地形の下りでかなり悩まされた。

 標高1650m付近で傾斜が緩んで尾根が収束すると悩ましいルートファインディングから開放され、これまでのように頭は使わず体を使っての藪漕ぎが中心になる。石楠花の濃さは相変わらずで、たまに笹地帯に変わったり藪無しの歩きやすい背の高い樹林に変わったりしても距離が続かない。

 1610m鞍部手前で、今回の行動中で尾根に取り付いて以降初めて人工物を発見。ピンクリボンだった。新しくはないがそれほど古くもなく、数年前くらいが妥当な古さだろうか。馬羅尾山からの下りでも目印は見なかった(正確には気づかなかっただけかも)ので、もしかしたらこれを付けた主はあの石楠花藪に懲りて撤退したのかもしれない。この目印は唐沢山まで続いていた。

 1610m鞍部には境界標識と思しき朽ちた木製の角柱があった。この他にも切り口がきれいな枝など人の手が入った形跡は散見されたが、現在では石楠花藪が蔓延って道と呼べるものはない。石楠花が薄くなった場所のみ獣道が見られる程度だった。

 1610m鞍部を通過しても石楠花の攻撃の手は緩まなかった。いや、傾斜が緩い尾根の方が手強かった。GPSの残距離はまだ半分にも達していないのに、時計を見ると馬羅尾山出発から既に1時間が経過していた。この植生が続くと唐沢山まであと2時間くらいかかりそうな。途中でエスケープしようにも南斜面はどこも急峻である。安全なルートは唐沢山経由しかないので頑張るしかない。幸い、前半の馬羅尾山の登りと違って天候は回復傾向で日が差す時間が多くなり、雪は止んでくれて藪も乾いた状態になり、馬羅尾山の下りの途中で上下のゴアを脱いでいた。

 1710m峰付近も石楠花天国で通過には苦労した。DJF氏はよくもこんな区間を馬羅尾山まで往復したもんだ。しかも体調不良の時に。彼は意識してスローペースで歩いたと記しているが、実際に石楠花と格闘してみると、スローペースで行動しないととても体力的に持たないことが分かった。完全に石楠花藪が連続するわけではなく、短い区間ながら笹藪や背の高い檜類で地面付近の藪が皆無の場所もあるが、馬羅尾山〜唐沢山間では8割くらいは石楠花の相手をする必要があった。

 1711m峰は顕著なピークで、ここは石楠花が無く快適に歩ける場所だった。しかし下るとまたもや石楠花。もうたくさんだと叫びたいほど。結局、唐沢山直下まで石楠花藪は続き、唐沢山に到着する頃には疲れ果てていた。ここまで長時間の石楠花藪はたぶん初めてだと思う。立ったハイマツや新潟の根曲がり潅木、ネズコなども強烈な藪だったが、ここまで長距離の厳しい藪漕ぎはそうはなかったと思う。馬羅尾山を狙うなら唐沢山経由、特に唐沢山から往復は絶対に避けるべきだろう。できるだけ藪漕ぎを回避するなら、馬羅尾山と唐沢山は切り離して個別に登った方がいいと思う。

 唐沢山山頂部はDJF氏の記録で見た覚えがある巨岩が最高点であった。その巨岩は1つの岩ではなく2つの巨岩が寄りかかった構成で、山頂の真下に人が通れるほどの幅の石門ができていた。山頂へは巨岩の南側を巻いて登ったので南側から石門を潜った。

 石門北側出口付近が地面としての最高点だが、やはり正確な最高点である巨岩のてっぺんに登りたくなるのが人情だ。うまい具合に出口左側が木が生えた土の斜面で石の上まで繋がっていて、比較的安全に登ることができた。他はスベスベで垂直の岩肌で登るのはまず不可能だろう。

 巨岩のてっぺんは南側は木が生えているが北側は無毛地帯で展望が得られるが、周囲の木の高さの方が目線より高いのであまり展望がいいとも言えない。でも西側は大きく開けて、苦労して歩いてきた馬羅尾山までの尾根が見えていた。ここから見る1711m峰は急峻で格好良かった。かなり体力を消耗したのでここで大休止。馬羅尾山からの所用時間は約2時間半だった。岩のは日当たりがよく、気持ちよく日向ぼっこしながらのお休みとなった。

 唐沢山より下山開始。まさかこの先もこれまで同様の石楠花地獄だったら本当にイヤになる。石門を潜って南東尾根の出だしは急な下りで地形が読みにくく、馬羅尾山の下りの二の舞かと思いきや、すぐに傾斜が緩んで尾根が明瞭となり、これまでと違って複数の目印が目立ち進路を誘導してくれる。もっとも、これまでの読図の難易度からすれば簡単な尾根なので目印など不要だが。心配していた石楠花は唐沢山の東側は薄く見られる程度で、しかも地面近くではなく高い位置で枝分かれしているので藪漕ぎにならなかった。こうも植生が大幅に変わるとは。これなら雨引山から唐沢山往復は簡単だろう。

 1240m鞍部(雨引峠)へ1500m肩で左に曲がるが地形図が頭に入っていれば分かりやすい。そちらの尾根入口には目印があるが、直進方向の尾根にも目印が付いているので要注意。峠へ続く尾根は急な下りが続くが石楠花は皆無。ただし岩が登場するので迂回する必要がある。目印や何となく踏跡があったりするが、それらが見当たらない場所もあるので各自歩きやすいように適当にルートを決めればいいだろう。尾根上は場所によっては邪魔な枝が伐採された形跡が見られ、明らかに人の手が入っていた。

 植林帯に入ると踏跡が連続するようになり送電鉄塔付近下に到着。周囲が開けている影響か笹が深くなるが、林道まですぐそこなので適当に下ったらえらく濃い笹の海で短距離ながら苦労した。たぶんそこそこまともな巡視路が林道からあるはずだ。

 林道に出てみると廃林道だった。さて、せっかくここまで来たのだから雨乞山へ立ち寄らないわけにはいかない。標高差は100m弱で、たしか登山道があったはず。しかし1240m鞍部(雨乞峠と呼ぶらしい)から雨乞山側は植林と低い笹の尾根で薄い踏跡程度しかない。でもこれまでの石楠花藪を考えれば天国のような植生であり、ザックをデポして軽装で出発した。

 まだそれほど背が高くない檜植林帯を少し上ると明瞭な道が登場、登山道に違いない。廃林道の峠よりもやや南に下がった場所に登山口があったようだ。帰りに確認してみよう。

 道はジグザグに高度を上げてからトラバース気味に西斜面を上がって尾根へ出る。尾根上にも道があるようで分岐点があり、私が登ってきた廃林道方面を指して「下山道」と案内が出ていた。

 尾根に出るとなだらかな稜線歩き。植生は落葉広葉樹の自然林に変わり、明るく気持ちがいい。もう日が傾きかけた時刻なので、発達した人工林の中だと徐々に暗くなる時刻か。このエリアでこの標高だと雪が少ない影響かブナではなくコナラ、ミズナラが中心だった。

 傾斜が無くなると右手に祠が登場。ここは雨乞山山頂の一角らしい。前方には赤い鳥居が見えるので行ってみると自然林が開けた見通しのいい広場で、三角点が鎮座していた。地形図上の山頂はここだ。西側は唐沢山が大きく、残念ながらその奥は見ることはできない。北側は鍬ノ峰が良く見えているが、その奥は雪雲か雨雲かがかかって霞んでしまっていた。山では確実に降雪だろう。それにひきかえて安曇野の平野部は良く晴れていた。僅かな距離の差が天気に大きく影響している。

 これで本日の山の予定は全てクリア。残るは下山のみで登山道があるのでもう藪漕ぎの心配をしなくていい。峠に戻ってザックを背負い、廃林道歩きではなく「下山道」の案内に従って廃林道から西側に入る道を下ってみた。おそらくは送電線巡視路も兼ねているのだろう。

 地形図に記載がない廃林道と合流するとちょっと草っぽくなるが大した障害ではない。地形図に記載された廃林道の西側を沿うように下っていき、地形図に記載された廃林道のヘアピンカーブが連続して高度を落とした付近で廃林道に合流、以降は廃林道歩きだった。かなり荒れた場所もあり、長期間補修されていないのは明らかだった。送電鉄塔建設当時にのみ使われたのかもしれない。倒木も何本かあり、1本だけ処理されていたので送電線巡視路としては使用されているようだ。

 やっと道の状態が良くなってすぐに林道ゲートが登場。これではゲートがあってもあまり意味がないような。ゲート横には祠があり、雨乞山信仰登山の名残であろう。そこから駐車場所まではすぐだった。


 まとめ。唐沢山は雨乞峠(1240m鞍部)から容易に往復できることが分かったが、馬羅尾山はかなりの藪山であることがはっきりした。一番厳しいのは唐沢山〜馬羅尾間で、石楠花が延々と続き体力、時間とも消費するコースだ。唐沢山からの往復は絶対に避けた方がいい。最小限の労力で登るなら馬羅尾山単体にすべき。問題はどこから登るかだが、今回私が登りで使った尾根も選択肢の一つだが、岩混じりの急な尾根で下りは結構厳しいだろう。登るときに目印を残しておかないと下りのルートファインディングでかなり苦労するのは確実な地形だった。かと言ってDJF氏が使った尾根では1710m峰に出るため、主稜線に出てからの藪漕ぎが長い。傾斜、尾根の細さ、石楠花の高さからして、残雪期を狙っても石楠花から逃げるのはまず無理と思われる。沢登りという手もあるかもしれないが、地形図を見ると南側の谷の傾斜はどこも急峻で、藪は避けられても危険は増すと思う。馬羅尾山は何とも悩ましい山だ。

 

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